歴史考古学・城郭史の研究者として、また、城郭一般に対する幅広い知識の持ち主としてご活躍されてきた77年の御業績を振り返る。
西ヶ谷先生の御来歴

神奈川県横浜市御出身。専修大学法学部を御卒業される。
東京大学文学部大学院国史研究生等としても学ばれる。
高校時代に大類伸先生・鳥羽正雄先生・伊礼正雄先生・桜井成廣先生に関東地方の中世城郭に関するご指導をいただき、城郭を実際に先生方と歩き学ばれた。
大学に入り、学生研究会で杉山博先生と出会い、戦国時代と城の見方を直接学ばれた。名著出版編集部において月刊『歴史手帖』編集長、東京都荒川区史編纂委員、東京都江東区船番所発掘調査団長、土浦城発掘調査団長、古河城発掘調査団長等々を御歴任。その後、立正大学文学部史学科講師、日本城郭資料館長、日本城郭史学会代表、板橋区郷土資料館運営協議会会長として、また朝日カルチャーセンター常任講師(33年間)、クラブツーリズム常任講師(13年間)を務められた。歴史考古学、城郭史の研究者として夥しい数の著書と論文を執筆され、日本の城郭史研究に大きな足跡を残された。幅広い知識に裏打ちされた事典、総覧の執筆が多いのも執筆著書における顕著な特徴である。また、歴史関連書籍の編集者としての経歴から、編集者としての目線とこだわりをも併せ持つ稀有な研究者でもあった。
研究者としてのみならず、広く一般に門戸を開いた日本城郭史学会の代表として、城郭関連知識・情報の一般の方々への普及活動にも長年邁進された。
2025年1月1日逝去される。享年満77歳。
城郭研究の原点


先生が小学生の時に作成された高さ18㎝の城郭模型。現在のような市販の模型の無い時代、先生はマッチ棒や竹ひご、画用紙などで手作りの模型を作られた。


西ヶ谷先生が「歴史と旅」平成9年5月号に掲載された「わが城キチ一路半世記」
ここには、もともと城郭模型を作製されるほど城好きだった先生が、中学生時代に地元横浜の小机城を訪れた際の強烈な印象が終生続く学問の道へのスタートとなったこと、大学生となって、ますます城の世界へのめり込んでいったこと、恩師との出会い、出版社の編集者から研究者への転向、学問の道への挑戦などが記されている。
主要著書 1967-1993
膨大な量であるため全てを網羅できていないことを最初にお断りしておく
- 日本城郭全集(4巻、15巻、別巻) – 人物往来社 1967~1969年
- 日本城郭資料集、- 人物往来社 1967年
- 城郭―その総てを解体・復元― – 日本城郭資料館出版会 1969年 鳥羽正雄監修・西ヶ谷恭弘著
- 日本名城百選 – 秋田書店 1969年
- カラー日本の名城 – 秋田書店 1970年
- 日本城郭事典 – 秋田書店 1970年
- 日本名城100選 – 秋田書店 1971年
- 名城―その歴史と構成-、新人物往来社 1971年
- 神奈川の城(上巻)‐朝日ソノラマ 1972年
- 神奈川の城(下巻)‐朝日ソノラマ 1973年
- 関東の名城‐秋田書店 1973年1月
- 日本名庭100選 -大橋治三共著、秋田書店 1975年
- 探訪日本の城(全12巻) – 小学館 1977年
- 築城の歴史 – 小学館 1978年
- 日本名城大図鑑(図説百科2) – 新人物往来社 1978年
- 北区の歴史 - 共著、名著出版 1979年
- 文京区の歴史 - 共著、名著出版 1979年
- 武相もののふの舞台 横浜の古城 – グラフヨコハマ28号 1979年
- 探訪ブックス「城」(全10巻) – 小学館 1980年 共著
- 日本城下町100選 – 後藤美恵子共著、秋田書店 1980年
- 城郭事典 - 小学館 1981年
- 城と城下町の旅(るるぶ愛蔵版)-日本交通公社 1981年
- 名城(日本発見13)-暁教育図書 1981年
- 城~日本編(万有ガイド・シリーズ) -小学館 1982年4月
- 城郭と城下町(全10巻) – 小学館 1983年~1984年
- 日本城郭古写真集成 – 小学館 1983年12月
- 郷土君津の歴史―久保を中心として – 文献出版 1984年
- 東京の一万年(全2巻) – 学習研究社 1990年
- 日本廃城総覧(別冊・歴史読本)– 新人物往来社 1990年
- 赤塚城 – 東京都板橋区教育委員会 1991年3月
- 新・日本名城100選(新100選シリーズ) – 秋田書店 1991年4月
- 史跡久川城 – 福島県伊南村 1991年
- 戦国の城(目で見る築城と戦略の全貌 歴史群像シリーズデラックス版) -学研マーケティング、 上巻:関東編 1991年8月、中巻:西国編 1992年4月、下巻:中部・東北編 1992年12月、別巻:総説編 1993年11月
- 日本の城~復原図譜 – イラスト香川元太郎、理工学社 1992年1月
- 史跡逆井城(改訂版)– 茨城県猿島町 1992年10月
- 戦国城郭史の研究 -名著出版 1993年
- 城郭 日本史小百科 – 東京堂出版 1993年5月
- 日本名城図鑑 同一縮尺で見る城郭規模の比較 – 理工学社 1993年12月1日
名城―その歴史と構成-、新人物往来社 1971年・西ヶ谷恭弘著

『名城』はわが国の城郭研究の創始者であり、鳥羽先生の師にあたられる大類伸先生が監修してくださり、大類先生の監修で刊行がされることを最大の誇りとしていた著書である。
神奈川の城 上・下巻 朝日ソノラマ 、1980~89年

昭和46年から朝日新聞「京浜」「湘南」「神奈川」各版の月曜日に連載したものをまとめたものである。
探訪ブックス「城」(全10巻)小学館、1980~89年 共著

データを満載した城郭ガイドの決定版として小学館が1980~1989年にかけて刊行した文庫本サイズのハンドブックである。1巻は「東北の城」、2巻は「関東の城」、3巻は「中部の城」、4巻は「東海の城」、5巻は「近畿の城」、6巻は「山陰の城」、7巻は「山陽の城」、8巻は「四国の城」、9巻は「九州の城」、10巻は「城郭事典」である。
小さくて持ち運びしやすく、日本中を出張していた私にとって「出張のお供」に大変重宝した記憶がある。2000年代になっても内容は陳腐化していなかったため、城郭史学会の現地見学会に携行したところ、西ヶ谷先生に「おお、懐かしいなあ」と言われた覚えがある。
戦国の城(目で見る築城と戦略の全貌 歴史群像シリーズデラックス版)-学研マーケティング、 上巻:関東編 1991年8月

大判の冊子に縄張図・実測図・空中写真・地上写真等々をふんだんに掲載するとともに、城郭の鳥瞰図も多く掲載するという、それまでに無かった豪華なビジュアルの本である。関東編、中部・東北編、西国編、総説編の4巻からなる。左の写真は、関東編である。表紙を初めとする鳥瞰図は、昨年12月に急逝された城郭イラストレーターで、当学会会員でもあられた香川元太郎氏が作製している。香川元太郎氏を偲ぶ会は、この3月に行われたが、会場にはこの本をはじめ、西ヶ谷先生と香川さんが一緒に作った作品が複数並べられており、西ヶ谷先生と香川さんの絆、御縁というものが感じられた。


1993年

主要著書 1994-2004
- 日本の名城(関東編)―学研 1995年1月
- 城郭古写真資料集成 – 理工学社 東国編(1995年2月)、西国編(1995年4月)
- 日本の城ポケット図鑑 ―~天守現存の城から土塁・石垣の城址まで全国165城 -主婦と生活社、1995年4月
- 復原戦国の風景~戦国時代の衣・食・住 -PHP研究所 1996年4月
- 秀吉の城~戦国を制した太閤の城郭その築城と戦略(ビッグマンスペシャル) – 日本城郭史学会、世界文化社 1996年7月
- 日本の城 ~「戦国~江戸」編(ビッグマンスペシャル) -香川元太郎共著、世界文化社 1997年7月
- 名城総覧―1997年 同朋舎出版
- 国別守護・戦国大名事典 – 編著、東京堂出版 1998年9月
- 解説日本の名庭―心とかたちー‐NHKサービスセンター、テイチク 1999年1月
- 国別戦国大名城郭事典 – 編著、東京堂出版 1999年12月
- 「物づくり」に見る日本人の歴史(全4巻) ‐監修、あすなろ書房 1.日本人は「木」で何をつくってきたか(2000年2月)、2.日本人は「石」で何をつくってきたか(2000年5月)、3.日本人は「鉄」で何をつくってきたか(2000年6月)、4.日本人は「水」をどのように利用してきたか(2000年4月)
- 定本日本城郭事典 – 秋田書店 2000年9月
- 考証織田信長事典 – 東京堂出版 2000年9月
- 日本の城郭を歩く~古写真が語る名城50(JTBキャンブックス) – JTBパブリッシング、2001年7月
- 図解雑学 織田信長 – ナツメ社 2002年1月
- 前田利家~北陸の覇者 – 三木範治共著、JTBパブリッシング 2002年2月
- 衣食住にみる日本人の歴史 ‐監修、 あすなろ書房 1.私たちの暮らしのルーツ(2002年2月)、2.王朝貴族の暮らしと国風文化(2002年2月)、3.戦乱の時代を生きた人びと(2002年3月)、4.江戸市民の暮らしと文明開化(2002年4月)、5.目でみる暮らしの日本史(2002年4月)
- 国別城郭・陣屋・要害・台場事典 – 編著、東京堂出版 2002年7月
- 探訪日本の名城1 織田信長天下布武の城‐阿部和彦共著、夢みつけ隊 2003年2月
- 探訪日本の名城2 豊臣秀吉天下統一への諸城‐大橋健一共著、夢みつけ隊 2003年5月
- 探訪日本の名城3 江戸開府と徳川の諸城‐笹﨑明共著、夢みつけ隊 2003年4月
- 探訪日本の名城4 戦国大名の城‐阿部和彦共著、夢みつけ隊 2003年8月
- 探訪日本の名城5 東国の名城‐岡山宣孝共著、夢みつけ隊 2003年9月
- 探訪日本の名城6 西国の名城‐大橋健一共著、夢みつけ隊 2003年11月
- 探訪日本の名城7 海に臨む名城‐阿部・大橋・岡山・小佐々・笹﨑共著 2003年12月
- 城郭みどころ事典(西国編)(東国編) – 光武敏郎共著、東京堂出版 2003年9月
- 名城を歩く(歴史街道スペシャル) – PHP研究所 12.会津若松城(2003年11月)、13.安土城(2004年1月)、14.首里城(2004年2月)、15.和歌山城(2004年3月)、16.高松城・丸亀城(2004年4月)、17.岡山城(2004年5月)、18.小田原城(2004年6月)、19.広島城(2004年7月)、20.二条城(2004年8月)、21.備中松山城(2004年9月)、22.五稜郭(2004年10月)
1996年西ヶ谷先生近影
先生が研究者として最も脂の乗り切った時期に撮影された1枚。歴史や城郭の研究が楽しくてしょうがない、そのことがお顔から溢れ出ている良い写真。

国別戦国大名城郭事典 – 編著 東京堂出版、1999年12月

縄張実測図・支城分布図・略系図などを駆使しつつ、策謀渦巻く戦国の大名と城郭の変遷を判りやすく解説(と帯に書いてある)した力作。西ヶ谷先生はご自身も執筆されると同時に多数の執筆者から出された原稿、縄張図等の取りまとめを行われている。それまでの歴史本は、文献なら文献史学に、城郭の縄張なら縄張図に偏ったものが多かったが(現在でも)、この本では、文献と諸資料のバランスがよく、誰もが理解できる戦国史となっている。私が所蔵するこの本は、先生のサイン本であり、「乞 御高覧 佐藤尚登学兄 著書 西ヶ谷恭弘」と記されている。先生の花押が入っている上、私が「佐藤」姓を名乗っていた僅か2年ほどの期間にサインをいただいたことが分かる家宝でもある。
考証織田信長事典 – 東京堂出版、2000年9月

西ヶ谷先生は、信長に関する本を多く書かれているが、この本で従来言われてきた信長像を一変させる新説を述べられている。曰く「信長の鉄砲重視説は誤りだった」、「本能寺の変は6月2日でなければならなかった」、「意外にひょうきん者だった信長」等々、現在では定説となりつつある説を最初期に打ち出されたものである。個人的には、「本能寺の変が起こったのが6月2日未明でなければならない」説に深い感銘を受けた。光秀は、信長が息子信忠に「天下与奪」を行う前に信長を殺す必要があった、という理由に納得させられた。なお、私が所蔵するこの本も、先生のサイン本であり、「乞 御高覧 坂井尚登学兄 著書 西ヶ谷恭弘」と記されている。私が「坂井」姓に戻ってからサインをいただいたものである。




主要著書 2005-2025
- 名城の日本地図 – 文芸春秋、2005年03月
- 城郭の見方・調べ方ハンドブック - 阿部和彦、大橋健一、笹崎明共著、東京堂出版 2008年6月
- 日本の名城~古写真で蘇る(楽学ブックス)1.東国編、2.西国編 – JTBパブリッシング 2008年10月
- ぶらり!東京近郊の名城・古城 – PHP研究所 2008年10月
- 日本の城~透視&断面イラスト – 香川元太郎共著、世界文化社 2009年6月
- 江戸城 ~その全容と歴史 – 東京堂出版 2009年9月
- 古絵葉書でみる日本の城 – 後藤仁公共著、東京堂出版、2009年10月・日本の名城~城郭絵図面付き(別冊宝島) – 宝島社 2009年10月
- 名城を歩く(PHPムック 新装版) – PHP研究所 1.姫路城(2009年10月)、2.熊本城(2009年10月)、3.金沢城(2009年11月)、4.伊予松山城(2009年11月)、5.彦根城(2009年12月)、6.高知城(2009年12月)、7.松本城(2010年1月)、8.若松城(2010年1月)、9.江戸城(2010年2月)、10.大坂城(2010年2月)、11.名古屋城(2010年3月)、12.弘前城(2010年3月)
- 地図の読み方事典 – 池田晶一、坂井尚登共著、東京堂出版 2009年12月
- ニッポンの城~城で語る13人の戦国武将戦国武将と城(エイムック) エイ出版社 2010年1月
- ニッポンの城~全国の城を徹底網羅!! – エイ出版社 2011年3月
- 鳥瞰イラストでよみがえる日本の名城 -萩原一青画、世界文化社 2011年4月
- 一度は訪ねたい日本の城 朝日新聞出版 2015年3月
- 戦国の風景‐暮らしと合戦―東京堂出版 2015年9月
- 日本の名城画集成-小学館 2016年2月
- 地形で読み解く日本の城、編著 エイ出版社 2016年8月
- 地形から見る日本の城50 – エイ出版社 2020年8月
- 47都道府県・城郭百科‐笹崎明編集協力、丸善出版 2022年8月
- 日本の城年表‐監修、朝日新聞出版 2024年2月
- 日本の名庭研究講座 全6巻 東洋文化学院
地図の読み方事典 – 池田晶一、坂井尚登共著、東京堂出版 2009年12月

この本は、西ヶ谷先生の他のご著書とはやや毛色の異なるものである。もともと、城郭史学会名誉顧問であられた故籠瀬良明先生がお書きになった「地図読解入門」のリニューアル版が欲しいということからスタートした企画だった。地図関連の事柄は、主に私、坂井尚登と大阪在住の研究者で当学会会員でもある池田晶一さんが執筆している。もちろん、先生が執筆されている本である以上、城郭のことも掲載されている。奥州戦国時代終焉の舞台となった、福島県只見町の水久保(みずくぼ)城のことなどが掲載されている。奥会津には、先生が調査された城郭が多く、水久保城のほかに久川城、鴫山城、九々布城を調査されている。会津最大の山城、向羽黒岩崎城も調査されている。
地形から見る日本の城50 エイ出版社 2020年8月

城郭の形と構造は、築城する目的と地形によって異なる。兵法でいう城の理想的な形は「円形の得」といって、堀と土塁で丸く円形に区画する、とある。これは限られた土地に城を築く時、最大の容積(面積)が得られて、しかも防御ラインである土塁、すなわち堀に配置する兵士を円形にすると兵士の数が少なくても効率よく守れるからだ。これは、この本において、西ヶ谷先生がお書きになった巻頭言である。先生の城郭というものに対する思想が良く表現されている言葉である。もちろん、現実にはさまざまな地形があって、個々の城郭の形態もまたさまざまである。この本では、それについて具体的に述べられている。出版社名の「エイ」は「枻」という漢字であるが当用漢字にないのでご容赦願う。









